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  • 執筆者の写真tomoka kisalagi

ヤン・ペシェクさん

シアターX ヤン・ペシェク一人芝居

「存在しないが存在可能な 楽器俳優のためのシナリオ」

ボグスワフ・シャフェル作


「…セリフはまじめな芸術論のみを、延々と語り続け…俳優ヤン・ペシェクは正反対の下品で愉快な演技を繰り返し続けます…(前後省略) 

受付で事前に目を通すよう渡された紙面。なるほど、芸術論の講義をしている設定ですね。この前提は理解が必要不可欠。なぜなら、舞台の台詞は全編ポーランド語だからです!訳はありません。私はひとことも解りませんでした。しかしながら、ヤンさんのお芝居に幾度となく驚き、笑い、どんなに夢中になったことでしょう。


現代社会において、一般論として、インテリジェンスが高いほど、衝動的/本能的な身体運動は抑圧、或いはコントロールされる「べき」ものと考えられているのではないでしょうか。これは、改めて考え至ることもない漠然とした、モラルに近い、一般的な理解のように思います。


そのように、社会において相対的に存在する「インテリジェンス」と「衝動/本能的身体運動」。舞台が始まり、ヤンさん登場から、たった数分、いや、数秒だったでしょうか、その概念は見事に覆されてしまいます。同じ瞬間、同じ空間に、対局にあったはずの2項が、同等に存在するのです。一方が一方を抑圧や支配することもなく、相対することもなく、一人の人間のうちに存在します。その瞬間、「笑い」が生まれます。純粋としか言いようのない「笑い」が。

本来、抑圧されているだけで、ハイ・インテリジェンスを持つ人間も動物的な衝動を常に持ち合わせているという真実。人間ってなんだろう…、私たちはどこへ向かうのか…。ゴーギャンの作品を思い浮かべつつ、問いかけたくなりました。



舞台タイトルのとおり、この舞台において「楽器俳優」と称されたヤン・ペシェク。現代音楽作曲家ボグスワフ・シャフェルがヤンさんのために書き、また、ヤンさんの卓越した感性を通じて完成された舞台。音響としての音楽は一切流れませんが、セリフ、動きから、音楽が流れます。この音楽こそ、舞台を完全なものにしており、美しい瞬間が何度も訪れます。お芝居ですが、まさに芸術作品。素晴らしい舞台で、鑑賞できたことを幸せに思います。ご案内くださった渡辺紀子さまに深く感謝申し上げます。


また、ヤンさんが、舞台後のインタビューの機会に仰った、「役」そのものと「自分の直感/感性」を自由に行き来してよい、という一言に、溢れんばかりの勇気と感動をいただきました。説明不足をご容赦ください。大切にしたいと思います。


ヤンさん、とっても素敵な方でした。素晴らしかった!

ボグスワフ・シャフェルに出会えたことにも感謝を。


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