• tomoka kisalagi

灯篭流し

夏の青い空は、なぜか異様に冷たい。灼熱の大地を、表情ひとつ変えず永遠に覆う真っ青な空。大気圏を越えると、ただ続いていく真空。太陽に照らされて、薄目を青く光らせる。


夏が来るといつも、この晴天を想う。音を吸収する青は、雪より沈黙して、ひどく冷たい。吸収された音たちはどこへ行くのか。特異点に集まって、ブラックホールはできたのだろうか。


共感という言葉はどのような状態、現象を指しているのか、本当に知っているか疑問だ。果たして人の苦しみを理解できるのか。身近な人の苦しみでさえ、どれだけ理解しているか知らない。

望んでも望んでも遠のいてしまうのは、時間がトリックばかり生むせいか。無力と悟れば胸が張り裂けそうに痛むのはなぜか。

どうにもならない無力さを、永遠に続く真空へと還していく。




「構造相転移」


ついに置き去りにされた

これほど薄い硝子の上では

瞬きするのも恐ろしく

呼吸したならどこへ落ちるか

金属を、獣が引き裂く振動が

大気圏の遥か彼方から

光速の形相で迫ってきて

ここを壊して、まだ足りない

赤鉄が走り出す

水は、まさか蜃気楼を見たか

それともメルトに惑わされたか

途端に幻追いかけて

天へ向かって身を投げた

そして、雲は尽き果てた

すると、蒼は一気に遠いて

目は、閉じられた

吸い込まれた鳥や星の嘆きは捨て去られ

雲と共に失われ

もう過去というのは、失われてしまった

我心臓を劈く蒼

遠すぎて、声が届かない

風が止み

一切の伝達回路が遮断されると

太陽熱の波動だけが

ぎらぎらと息づいて

一音一塵、なくなった

永遠に続く繰り返しの恐怖に

狂った赤鉄が掻き集まる

天地は回転を始め

琥珀の放射線は

燦々と降りそそいだ

確かに竜がいただろう


誰かが嘗ての水のように狂ったか

こちらを向いて

過去の残像のように息もなく

いや、石碑になること望んだか

いや、もう時間は消えていたか

とにかく、今にも竜を喰いそうな

黒い集積物がまとわりついて

それでもそらは

あおくはれわたっている

青銅の鐘が鳴り響いた

この心臓は

鉛に誘われるように

深い海底へ向かって

伸びるように沈んでいった

終には、もっと先へ行きたいと深淵を求め

その頃には、すっかり芯から蒼ざめて

もはや、凍り付いてしまった

我心臓を劈く蒼


「構造相転移」2004年夏作

                           

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